東もの・西もの 砥石の地層対決──地質が変われば、研ぎ味も変わる

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前回のブログでは京都近郊の地層の特殊性について書きました。ただし、京都近郊でもさらに細かく見ていくと地層の形態も大きくことなっていきます。包丁や鉋などを仕上げるうえで「天然砥石の個性」はとても重要です。
その中でもよく聞くのが「東もの」と「西もの」の違い。京都を中心に、古くから砥石愛好家や職人のあいだで使われてきたこの呼び分け、実は地層の違い=石そのものの違いに根ざしています。

このページでは、中山・大突・奥殿などを含むいわゆる“東もの”と、丸尾山・大平山・池ノ内などのいわゆる”西もの”を比較しながら、なぜその研ぎ味が変わるのか、どのように採石地の地質が異なるのかを、地質・粒度・吸水性などの観点から掘り下げていきます。

1.地質構造から見る「東もの」と「西もの」の違い

🔵 東もの(中山・奥殿・大突など)

  • 地質:本口成り(ほんくちなり)
  • 岩石:粘板岩(slate)
  • 起源:放散虫を含む深海の泥が変成してできた
  • 層構造:戸前 → 巣板 → 車口と連なる、美しい層理
  • 特徴:低〜中程度の変成を受け、再結晶化せず粒子が均一に残っている

東ものは、非常に均一で細かい放散虫由来の粒子が高密度に含まれており、それが極上の滑走感と、カミソリにも耐えるような微細な仕上げ面を生み出します。いわば「精密研磨の王道」です。

🔴 西もの(丸尾山・大平山・池ノ内など)

  • 地質:合石成り(あいしなり)
  • 岩石:頁岩・泥岩に近い未変成堆積岩
  • 起源:より浅い海域や陸地周辺の泥・火山灰が堆積したもの
  • 層構造:やや断続的で、石質に変化が多い
  • 特徴:変成作用が少なく、自然風化や火山灰の影響を強く受けている

西ものは、砥石としては研磨力が強く、やや硬めでエッジが立ちやすい石が多くなります。ただしその分、「粒度のばらつき」や「砥ぎ感のばさつき」が出やすく、使い手の好みが分かれます。

2.粒度・硬度・研磨感の違い

項目東もの西もの
粒度(平均)0.1〜0.5ミクロン(極めて細かい)0.5〜1.5ミクロン(やや粗め)
硬度中〜硬中硬〜硬口
吸水性低〜中程度中〜高
割れやすさ非常に割りやすい(劈開性◎)一枚板としては割れにくい
向いている用途鏡面仕上げ、カミソリ、彫刻刀実用刃物、ステンレス包丁
見た目の表情層の美しさ、浅葱・巣板など紫色系、蓮華、曇り模様など

3.鋼材との相性と選び方のヒント

実際の研ぎでは「どの砥石がどんな鋼材に合うか?」が最大の関心事。
東もの、西もの問わず、各層ごとに数センチはなれるだけでも、砥石の性格は異なってきます。自分がもっている包丁の鋼材とどのように仕上げたいかにあわせて、「東西両方を持ち、用途で使い分ける」ことも楽しみの一つではないでしょうか。例えば、西ものひとつである丸尾山をとっても、東と西で比べたら、多少やわらかい印象がありますが、丸尾山での地層を縦にみると、それぞれ特徴のある砥石になります。自分の好みに合う砥石を見つけるのもまた砥石沼の楽しみの一つです。

まとめ

東ものの特徴西ものの特徴
均一な粒子、なめらかな研ぎ感粒度にばらつき、実用性重視
本口成りの粘板岩合石成りの泥岩・頁岩
鏡面仕上げ・精密刃物向き実用刃・ステンレス向き
層構造が明瞭で加工しやすい表情豊かで、色味や模様も楽しめる
鋼とのなじみが良く、仕上げに最適刃を立てる作業や、中仕上げに有効

東ものと西もの、どちらが上というわけではなく、それぞれに役割と魅力があります
あなたが「仕上げに何を求めるか?」──それによって選ぶ砥石は変わります。地層が違えば、研ぎ味も変わる。まさに自然が生み出した“使い分けの美学”といえるでしょう。